小さな教室からの挑戦

小さな教室でのささやかな挑戦を書き綴ります。

誰にも朝は来る

 辻村深月の作品。辻村深月の作品は好きで、ほとんどの作品を読んでいる。今回も楽しみに読み始めた。今回は、子どもを産めない夫婦、断腸の思いで子どもを手放すことになった幼い母の話。そして、特別養子縁組についても初めて知ることとなった。
 基本的に、育ての親である「佐都子」、産みの親である「ひかり」の視点で物語が進む。佐都子の夫やひかりの家族等は、あくまでも脇役。
 しかし、ある部分では視点がこの二人ではなくなる。それが第二章の最後。佐都子とひかりが対峙する場面で、子どもの「朝斗」の視点になる。この視点の転換により、「佐都子」「ひかり」「朝斗」の三角関係とでも言えそうな関係が浮き上がってくる。そう、決して母親達だけの物語ではない。主役でもおかしくない子どもの存在をしっかりと強調することができている。
 視点の転換で思い出されるのは、やはり『ごんぎつね』。物語の最後に、ごんから兵十へと視点が転換する。そのことを教室で取り扱っていたら、この『朝が来る』でも、視点の転換の効果を楽しむことができるようになるではないだろうか。
 さて、詳しい内容やクライマックスは、是非読んで確認してもらいたい。重たい話題ではあったが、最後はバッドエンドではない。いや、決してハッピーエンドだとは思わなかったけど。だって、「ひかり」の課題は何一つ解決していないのだから。
 だけど、誰にも「朝が来る」のでは、というささやかな希望を感じることができた。

朝が来る (文春文庫 つ 18-4)

朝が来る (文春文庫 つ 18-4)