小さな教室からの挑戦

小さな教室でのささやかな挑戦を書き綴ります。

多様性と言えば

 さて、多様性についての話も数回重ねてきました。

kyousituchallenge.hatenablog.jp

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 今回も論を進めていこう、と思います。

 多様性のある教室・学校をイメージする時に、真っ先に思い浮かぶのが大阪の大空小学校である。大空小学校は、今や全国的にも有名である。「みんなの学校」という映画が各地で上映された。映画の中では、障害のある子どもが全員通常学級に在籍しながら学ぶ姿があった。つまり、大空小学校ではフルインクルージョン教育が行われていることになる。海外ではフルインクルージョンは多くある。しかし、日本ではフルインクルージョンを行っている学校は稀である。しかも、公立小学校で行っているというのは、今まで例がないのではないだろうか。

 そんな大空小学校の初代校長を務めた木村泰子先生は、退職された今でも精力的に発信をされている。そんな木村先生の著書から、多様性を大切にする姿勢を読み解いてみよう。

 

学校で子どもを、例えば、ここからあそこまで成長させたいと思った場合、40人いたら電車を40台準備しなくてはいけません。でも、そんなことはできない。

だから、私たち教師は、子どもたちが「自分で自分の電車を準備する」方向にもっていかなければいけない。その電車の名前は「じぶん」です。学習も行事も、物事に取り組むプロセスとしては「自分からやる」が大事。自らの意志で自分らしくやるのが一番力がつきます。

しかし、多くの人は「学校が電車を用意しなくては!」と思う。でも、ほとんどの場合、学校が用意できる電車は1台だけです。

そうすると、大人に気を使える子、ちょっとみんなよりも成長が早い子はいいけれど、その1台に乗り切れない子はそこから振り落とされてしまう。大人に気を使えない子どもらしい子、成長が遅いと言われ、わかりにくい子たちは、置いていかれるわけです。

(『「みんなの学校」が教えてくれたこと』木村泰子・小学館・p92)

 

 どうしても学校や学級では、最大公約数的なものを用意しがちである。しかし、そこからこぼれ落ちてしまう子が出るということは、容易に想像できる。それをどうするか、ということを考えなければならない。だが、教師一人ができることには限界がある。だからこそ、子どもたち一人ひとりが主体的に力を発揮できる環境を整えるということは大切になるだろう。 

 以上に簡単に紹介した大空小学校が行っているフルインクルージョン教育について、みなさんはどうお考えでしょうか? つまり、「インクルーシブ教育は是か非か」ということである。

 僕は、インクルーシブ教育は是である。推し進めていく方向でよい、と考えている。また、その先にフルインクルージョンを見据えていきたい、とも考えている。

 2012年に中央教育審議会で出された「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」で、「インクルーシブ教育」という言葉が使われるようになった。ここで、障害のある子どももない子どもも「同じ場で共に学ぶことを追求する」という原理が打ち出された。また、これまでに存在してある多様な場―特別支援学校、特別支援学級、通常学級、通級による指導―も、今までのように整備する原理も打ち出さた。

 ある意味、ダブルスタンダードとも取れる原理の打ち出し方に批判もあるだろう。しかし、巨額の財的措置を伴う教育政策が簡単に行えるわけでもないし、変化に対応できる教員の確保も容易ではない。そのような現状を鑑みると、漸進的かつ現実的な改革である、と評価したい。

 だが、「インクルーシブ教育」を推進していくことには多くの困難が待ち構えているだろうと考えている。もっと言うなら、どの学校も大空小学校のように、フルインクルージョン教育をして大丈夫なのか、という疑問がある。どのような子も通常学級に入って学ぶ。それが本当によいことなのだろうか? そこはもっと吟味しないといけないように感じている。

 もちろん、「とにかくフルインクルージョン教育」とまでしないと、フルインクルージョン教育が行われるようになるには時間がかかる。であるが、「とりあえずフルインクルージョン教育」となれば大きな害が生じるのではないだろうか、とも感じている。

 だからこそ、大空小学校の取り組みというのも、もっと吟味しないといけません。木村先生のリーダーシップ、新設校だから方向性を新たにできた、地域の理解が高かった等、どのような要因で、あの大空小学校の取り組みが成功したのか、もっと分析しないといけない。木村先生は、退職した今でも精力的に活動されています。それをこれからも注目していきたい。

インクルーシブ教育ってどんな教育? (インクルーシブ発想の教育シリーズ)

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