小さな教室からの挑戦

小さな教室でのささやかな挑戦を書き綴ります。

課題先進国で生きる

 2016年、電通の女性新入社員の自殺が、長時間のが原因だったとして労災が認められる、という報道があった。それに呼応してか、翌年1月29日に厚生労働省から、働き方改革(長時間労働の抑制・年次有給休暇の取得促進)を支援する「働き方・休み方改善ポータルサイト」の開設が発表されることとなる。長時間の過重労働が本格的に見直されようとしてきている。

 これは教師の世界も同じである。一月に週に60時間以上働く小中学校の先生の割合が70~80%に上ることが、全国の公立小中学校の教諭約4500人を対象にした連合のシンクタンク連合総研」の調査でわかった。これに伴い、当時の松野文部科学相は、業務改善のモデル地域の指定、有識者ら業務改善アドバイザーの教育委員会への派遣、部活動の休養日などに関するガイドラインづくりという三つの対策を掲げた。

 教育の現場にも「働き方改革」が導入されてきている。しかし、「公立学校教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)が大きな壁にもなるかもしれないと思う。教師の仕事は複雑で管理が難しいとして、残業代を払わず、代わりに基本給の4%を全員に支給する仕組みになっている。前提として、教師は残業があってもしょうがないよね、と宣言しているようなものだ(苦笑)。もちろん、これにより地方公務員よりも高い給与になっているのだけども。

 とにもかくにも、官も民も「働き方改革」に着手し始めているのだ。それを進める上で外せないキーパーソンの一人が駒崎弘樹氏である。

 駒崎氏は2004年にNPO法人フローレンスを設立し、日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始した。また、2014年には、これまで保育園に入れなかった医療的ケアのある子ども達を中心とした障害児を専門的に預かる「障害児保育園ヘレン」を東京都杉並区に開園する等、先駆的な活動を精力的に行っている。

 今や「働き方改革」は、先述したように政府も精力的に行うようになった。さらに、多くの書籍の出版等で「ライフワークバランス」という言葉も聞かれるようになっている。そこで紹介されるような事例を、この本でも紹介されている。それが駒崎氏自身の失敗や思いと共に記してくれているので、とても読みやすくなっている。

 もちろん、これらの部分は素晴らしい内容なのだけど、僕が心惹かれたところはここではない。それが

「先進国は先進国でも『課題先進国』さ。我々は何の因果か、1人で早めにテストを受けなくっちゃいけなくて、過去問もなく、カンニングもできない状況なんだよ。」

 と、氏が参加していた政府の専門委員で出会った大学教授からの言葉である。

 僕たちが暮らすこの国や社会は、確かに課題が山積している。それは教育も同じように。だけど、そこに答えはない。そして、誰も答えを教えてくれない。そんな状況である。

 そこに少しでも前向きにコミットできるような姿勢でいたい、と思っている。そんな思いを強く抱くきっかけを与えてくれたのが本書だ。「働き方改革」という視点だけでなく、多くの刺激を与えてくれる一冊である。